宇宙人からの指令 海江田嗣人会員創作童話 7 6月14日 ゆうべも遅くまで勉強していたら母はもう寝ていました。 バカ、バカ、バカ、と2回点滅を三回も発して怒っているのです。 うそ〜、私はオヤスミと合図したのに〜。何で〜? 不可思議で計算式でも理解できない百合子の返事に一瞬道子の血が逆流した。 もう午前零時というのに、深夜の大声なんです。 「あんた達 何かのスパイじゃないの」と母が飛び起きた。 道子は興奮した気持ちを落ち着かせ隣近所を気にしながら、声を抑えて。「バカ、とは、合図していないよ〜」と続けて言うのです。百合子は「何?〜、聞えないよ〜」と、返事する。百合子は地獄耳を隠して白を切るのです。 ウォー、ワンワン。と、遂に近所の犬が吠え出しました。ウルサイ。 窓越しに話せなくなった道子はノートに「オヤスミ」を送ったのに何故「バカ」なの?と書いて、そのノートをパット広げると懐中電灯で明るく照らし、百合子の部屋に向けたのです。すると百合子は双眼鏡で読み取ると、すぐ返事を書きます。待っていた道子は机に準備してある双眼鏡で百合子の文字を読みました。「だって、さっきの点滅2回だったのよ。道子、悪いのは懐中電灯だよ」 少しは、変だなー、と思っていた友人の百合子は「そう、思えば最近道子の懐中電灯は調子悪いんじゃない?」と、二人で取り決めた点滅信号の合図が「オヤスミ」は4回、「いいよ」は3回、「バカ」は2回、「メシタベル」は5回に、取り決めているのに、合図以外の1回とか、意味もなく3回とか来るのに、あいつ調子悪いんじゃないと感じたのです。 ええ、窓向いの友人からの信号はノートを書き込む視界の範囲内です。 それなのに最近、道子の懐中電灯はスイッチが接触不良で点滅が抜け落ちることがあるのです。だから「オヤスミ」の4回が抜け落ちた点滅で2回になったのですよ。え、「バカ」は余計だ、な〜んて面白くないでしょ。ワサビなんです。会話の。 こんな面倒なアナログ的連絡方法は古代人の通信、狼煙(のろし)を現代化した気分に二人は結構ハマって楽しんでいるのです。 そして勉強に退屈すると、懐中電灯で点滅信号を送り合い宇宙飛行士を真似て、気分を落ち着かせるのです。 ケイタイ電話?そんなのダサいに決まっている。 中学校のクラスメイトである道子と百合子は家がお互い道路向い、宇宙飛行士になりたい二人は高校受験を同じ志望校に決めて毎夜遅くまで勉強しているのです。でも少し他の中学生とは違っている二人はケイタイ電話を使わず。 もっぱらモールス信号でOK(― ― ― ―・―)とかNO (―・
― ― ―) とか簡単な会話も全てモールス信号の合図で話すのです。 百合子に「オヤスミ」を伝え、やっと落ち着き、道子は寝る気になりました。けれども、布団の道子は中々寝付けません。気分は良くても目が冴えて来た道子はお腹が空いているようなもやもやを感じて、お腹の中がかゆいのです。その様子を先ほどから察知していた母は「どうしたの道子」と振り向くのです。「ねえ、お母さん、お腹の中がかゆいの」と、母に訴えます。「変な事言わないで」お腹が痒い訳ないでしょ。と小声で母が返事します。 だって、「くすぐったい、かゆい、いたい」の順番でしょ。だから道子はかゆいの、と母に説明します。「でも、かゆいのかな、くすぐったいのかな」?クスッ、うふふ、ははははっ〜〜なーんて声だしたら、あんたバカじゃないのと母に言われそうで、そう思うと本当におかしくなってきたのです。ふふふブブブッ。 何言ってんの、おかしな子。母もプッと言ったようです。 「ねえお母さんお腹がすいたのかな」。道子は声をかすめて伝えます。 母はお腹が空いて痒いことは無いよ。そんなのおかしいじゃない?「変なお腹ね」と言います。「でもお母さん、食べ過ぎてお腹が痛くなることがあるでしょ」。「それはあるわ」でも痒くなることなんてないわよ。と変な目で道子を見るんです。「でも本当にかゆいんだから」。と道子はむくれます。 変ネ道子は。それは道子と別の人がお腹に住んでいてあんたの脳に指令を送るのかもよ。と母は真面目顔で声を茶化して言うのです。 なんだか捨台詞に聞えます。せっかく寝付いた母は道子に起こされて、いい加減なことを言うのです。 「キットお腹に宇宙人が住んでいるのよ、だからお腹がすいたあなたは人と違うことを言うんじゃない?」。へぇー宇宙人が居るんだ。お母さん、宇宙人とも結婚したんじゃない?道子はそう思うと母の顔をまじまじと見回すのです。 「何よ、私は宇宙人じゃ無いわよ」と、道子は母に心を悟られました。 でも、だんだん、道子は本当に宇宙人が住み着いているのかなと考えてしまいます。そうだ、わたしの食べた夜食を宇宙人が食べるのだ。そうだったら私はキット痩せられるかも、そんなら我慢しなくて夜食をバリバリ食ってやる。そんな妄想でいっぱいになってきた道子はガバッと布団から起き上がると台所に直行、山盛りのご飯とオカズを準備して、勉強部屋に行きました。 すっかり夜更けた窓からはオリオン座が輝き、おお犬座のシリウスが眩しく目に刺さります。道子が夜食を食べ始めたその時、「メシタベル」と4回の点滅が飛び込んで来ました。なーんだ百合子も徹夜か。道連れができたと安心した道子は懐中電灯で4回点滅信号を送ると、「バカ」「バカ」と2回来た、フーンそれじゃ私も「バカ」「バカ」と2回送ったのでした。不思議と「バカ」の点滅信号だけは正確に送られるのです。 あ〜あ〜百合子も宇宙人に食われているんだ。「あいつUFOの子分じゃないか?もしかして。最近怒りっぽいもんな「バカ」「バカ」と勝手に怒って。 まっ、いいか。ライバル、ライバル。達(だち)でライバル、百合子とはうまが合うもんな。負けとくか。「道子はそう思うと眠たくなるのでした。 コケコッコ〜、カアーカアー、チュン、チュン、チュン、カーテンのすだれ越しに一番鳥が鳴き、朝焼けの木漏れ日が赤くカーテンを染めて行きます。 もうすぐ受験です。さくらさくは目の前です。 道子のイビキが気持ち良さそうにグーグーと夜明けの協奏曲をスズメと奏でるのでした。 おわり 海江田嗣人 |